トロ箱一杯の干し魚
数年前、東京と埼玉のちょうど境目くらいの乗換駅でふと立ち寄った飲み屋さんは、海からずいぶん遠いのに、鰯料理が自慢のお店でした。
その日の客第一号だった僕は、大将に「お客さん、こんな魚みたことある?」とバットをみせられてびっくり。地元以外では、まずおめにかかれない白ゲンゲでした。
なんでも、常連の富山出身のお客さんに「みつけたらぜひ仕入れて食べさせてよ」と長年言われていて、はじめて市場でみかけたので今日買ってきたとのこと。
「実は、ウチの近所でもよく食べる魚なんですよ」とうれしくなって話が盛り上がり、次にいくときに、ゲンギョの干したモノを持ち込んだら、さらに次にいったときに「ワカサギよりコクがあります」なんて書き添えて、品書きに足してくれてあって、またうれしくて。
そんなこんなで、新秋津の「たけくらべ」は、今では仕事絡みで通りかかることの滅多にない沿線にもかかわらず、時々わざわざ出かけていってしまう飲み屋さん。気持ちのいい大将の店です。
さて。この「ゲンギョ」。正式には、「ゲンゲ」と呼ばれているようだけど、もともとは「下の下」なんてところから名前がついたという話も。見た目がグロテスクで、表面にとろっとした厚い粘りをまとっている魚。ウチのまちでは、鍋やみそ汁に。または、干してあぶって食べます(干すものと鍋やみそ汁にするものは、種類がちがうそうです)。昔は安い魚で、亡くなった祖母がトロ箱一杯買ってきて、庭で干して自家製の干し魚作ったりしたもんですが、最近はこんなパックで少しずつ買ってくる程度。でも、地元ではメギスと呼ばれるニギスとともに、いまだになじみの、「あぶって一杯飲む」いい肴なのです。
最近は、表面のとろっとした部分が、葛を叩いたみたいなるということから、独特の食感の天ぷらにしたり、吸い物のように仕立てたりと、いろんな使い方が増えているみたい。虎ノ門の居酒屋で、干したモノを3匹1000円で出しているのを見て、「ここにもある」ということと「この値段か!」ということの両方にも、びっくりしたこともありました。こういう、獲った場所でしか食べなかったような魚も、だんだんどこででも食べられるようになっていくんですねぇ。
そんなこんなで、ゲンギョ。最近は、「幻魚」なんて文字を振ることもあるみたいです。ご近所でみかけたら、ぜひ。
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